🌍 クリマニュース 第8号
特集:COP30で加速する “国家レベルのブロックチェーン活用”
🔍 特集:COP30で加速する “国家レベルのブロックチェーン活用”
COP30の開催に合わせ、今年はカーボンクレジットの世界で「国家レベルのデジタル化」が一気に進んだ印象があります。背景には、従来のクレジット市場が抱えてきた、データ改ざんリスク、登録簿の分断、プロジェクトごとの品質差といった課題があります。こうした問題を解消し、国として国際市場で信頼を得るための“国家インフラとしての透明性確保”が、ブロックチェーンを軸に実装され始めています。
まず、最も大きな注目を集めたのが TRST01 社が発表した PAIP(Paris Agreement Implementation Platform) です。衛星データとAIによるモニタリング、排出データの記録、カーボンクレジットの生成プロセスをすべてブロックチェーン上で管理する統合型の dMRV 基盤で、マラウイ政府が世界で初めて導入を発表しました。マラウイはこれを “AIとブロックチェーンで検証された国家排出データプラットフォーム” として位置づけ、プロジェクト単位ではなく国家単位で透明性を確立する取り組みとして国際的な注目を集めています。
アフリカでは、コンゴ民主共和国でも、広大な熱帯林のモニタリングを AI・衛星データ・Web3 を組み合わせて行う「国家デジタル炭素クレジット登録簿」の構築が紹介されました。森林変化検知、地上データ、資源トレーサビリティを一体化した取り組みで、巨大な自然資源を持つ国が自らの資源価値を自国管理するための“デジタル主権”モデルとして重要な意味を持ちます。
ホスト国ブラジルも同様に、国家レベルでの市場基盤を強めています。会期中に BNDES や Bradesco とともに 国家カーボンクレジット認証機関「Ecora」 を立ち上げ、プロジェクト登録、検証、メソドロジー、発行・償却までを一元管理するインフラを公開しました。Conservare プラットフォームを用いて GIS や公的データベースとも連携し、国内外の投資家が透明性を確認できる仕組みを整備しています。自主的市場(VCM)の主要供給国として、ブラジルが国際市場での信頼性を高める姿勢が鮮明になりました。
さらにブラジルは、COP30において 「Open Coalition for Carbon Market Integration(カーボン市場統合のためのオープン連合)」 という新たな国際枠組みも提案しました。各国の排出量取引制度やクレジット市場の基準を緩やかに整合させ、将来的に市場同士を接続していくことを目指す枠組みで、参加は任意ながら、既に複数国が関心を示しています。ブラジル財務省は、この連合が脱炭素の加速、技術標準の共有、低炭素製品の新基準づくりなど、多国間協力の基盤になると説明し、国際カーボン市場における“つなぎ役”としての役割を明確にしつつあります。
これら一連の動きを総合すると、今年のCOP30を境に、カーボンクレジット市場は「プロジェクトごとの透明性」から「国家全体の透明性」へと大きくフェーズが変わりつつあります。AI・衛星データ・ブロックチェーンを組み合わせた 国家インフラとしてのカーボンクレジット管理 が広がり、クレジットの品質や信頼性はこれまで以上に“国のデジタル能力”によって左右される時代に入っています。ブロックチェーンは、その基盤技術として確実に存在感を高めており、カーボン市場の次の10年を形づくる中心的な要素となりつつあります。
🔗 参考記事:
COP30 Brasil 2025 - Brazil announces national carbon credit certifier “Ecora” at COP30
COP30 Brasil 2025 - Brazil proposes global integration of carbon markets at COP30
文・構成:濱田翔平(KlimaDAO JAPAN株式会社)
📰 今週の注目ニュース
■ インド、国内ETS「CCTS」で9産業に排出強度目標を通知──700社超が対象に
インド政府は、国内排出量取引制度 Carbon Credit Trading Scheme(CCTS) の開始に向け、アルミ・セメントなど9産業の製品あたりの排出量(排出原単位)に基づく削減目標を順次通知しました。初回の正式通知は4産業(計282工場)で、削減幅は 2.8〜15%。残り5産業を含めると対象企業は約740社となり、カバー排出量は 7億tCO₂e超 に達し、世界有数の規模になります。
CCTSは、製品1単位あたりのCO₂排出量を基準にした「排出原単位方式」のBaseline & Credit制度を採用。目標を上回って削減した企業には CCC(Carbon Credit Certificate) が発行され、達成できなかった企業は CCC を購入して償却する仕組みです。取引はインドの電力取引所で行われ、登録簿は Grid Controller of India が運営します。
インド政府は並行して、再エネ・グリーン水素・マングローブ植林など 8つの国内オフセット方法論 を承認。2026年の正式市場稼働に向け、国内ETSとボランタリー市場の両方で制度整備を進めています。
アジア最大級の産業国であるインドがETSを本格導入することで、国際カーボンクレジット市場にも大きな影響を与えそうです。
■ PerennialとAmSpecが提携──土壌炭素の測定・検証をグローバル規模で拡大へ
土壌炭素計測のMMRV(測定・監視・報告・検証)を専門とする Perennial は、検査大手 AmSpec Group と提携し、世界各国での土壌炭素の高精度モニタリング体制を共同構築します。
AmSpecは70カ国以上・160超のラボネットワークを活用し、現地サンプリング・ラボ分析・認証を提供。Perennialは、IPCC Tier 3レベルに対応する独自のデジタル土壌モデリングを提供し、従来の“大量サンプル依存型”から、デジタルモデル+少量サンプルで精度を担保する手法へ移行します。
これにより、大規模農地での土壌炭素計測のコスト削減・迅速化・トレーサビリティ向上が期待され、VerraやISO 14064基準に沿った信頼性の高い土壌Cプロジェクトを世界中で展開可能になります。
両社はすでに、羊毛ブランド「NATIVA」の再生型農業プログラムで提携を試験導入。農場単位で炭素成果を直接検証する取り組みが進んでいます。
✏️ 編集後記:日本のカーボン市場にも「次の一歩」を
今回ご紹介したような国家レベルでのブロックチェーン活用は、残念ながら日本ではまだ明確な動きとしては現れていません。ただ、筆者が国内の関係当局の方々と意見交換をする中で、こうした海外の事例には確かな関心が寄せられていると感じています。カーボンクレジットの透明性確保や国際接続性の強化は、いずれ日本でも避けて通れないテーマです。
私たち KlimaDAO JAPAN は、グローバルで蓄積されている知見やネットワークを日本向けにも届けられる立場にあります。今回のCOP30で示されたような国際的な潮流が、日本のカーボン市場にも前向きに生かされ、より透明で信頼される市場づくりにつながっていくことを願っています。今後も海外動向と国内事情をつなぐ視点で情報発信を続けていきたいと思います。
🌎以下の「Subscribe」からニュースレターの無料登録をお願いします🌎
【PR】 Klima Research Institute(KRI)について
Klima Research Institute(KRI) は、KlimaDAO JAPAN株式会社が運営する
気候金融・カーボンクレジット・再生型経済(ReFi)に関する調査・分析・政策提言機関です。国内外の環境市場や制度動向を独自にリサーチし、企業・自治体・金融機関に対して脱炭素戦略やカーボンクレジット活用のコンサルティングを提供しています。
初回のご相談は無料で承っております。
脱炭素経営やJクレジット市場参入、ReFi領域での新規事業構想など、お気軽にご相談ください。
👉 詳しくはこちら:https://www.klimadao.jp/kri
ご相談・お問合せもこちらのページから承っております。
🏢 発行体について
著者(発行):KlimaDAO JAPAN株式会社
協力:ReFi Japan
監修:Fracton Ventures株式会社
■ KlimaDAO JAPAN株式会社
Web3・ブロックチェーン技術を活用し、日本から気候変動対策を変革する企業です。グローバルで再生型金融(ReFi)を推進する「Klima Protocol(旧:KlimaDAO)」の技術を基盤に、日本市場に適したサービスやシステム開発を通じて脱炭素社会の実現を支援しています。
現在、カーボンクレジットをブロックチェーン上で取引できるマーケットプレイス「CarbonMall」の開発を進めています。
■ ReFi Japan
気候変動や社会課題の解決を目的に、日本でReFi(再生金融)の理解と実践を広めるWeb3コミュニティです。国内外のReFiプロジェクトを紹介し、日本におけるReFiエコシステムの成長をサポートしています。
■ Fracton Ventures株式会社
“Protocol Studio for Ethereum” を掲げる、日本初のCrypto特化型インキュベーター。
これまでに18のWeb3プロジェクトを育成し、グローバルに送り出してきました。
書籍『Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」』(かんき出版)の著者でもあり、DAO TOKYOなどのイベント開催を通じ、アジアのDAO/Cryptoエコシステムのハブとして活躍しています。
✉️ お問い合わせ
KlimaDAO JAPAN株式会社
info@klimadao.jp
免責事項
本ニュースレターの内容は、一般的な情報提供を目的としたものであり、暗号資産・トークンその他の金融商品の購入や売却を勧誘・推奨するものではありません。
掲載情報の正確性・完全性については細心の注意を払っておりますが、その内容を保証するものではなく、誤りや遅延が生じる可能性があります。
本ニュースレターのご利用により直接的または間接的に生じたいかなる損害についても、KlimaDAO JAPAN株式会社は一切の責任を負いかねます。
また、本ニュースレターは閲覧および情報収集のみを目的としてご利用いただき、無断での複製・転載・再配布等はご遠慮ください。
なお、個人情報はKlimaDAO JAPAN株式会社のプライバシーポリシーに基づき、適切かつ安全に取り扱います。



