🌍 クリマニュース 第7号
特集:ブロックチェーンがつくる新しいカーボン市場(後編)
🔍 特集:ブロックチェーンがつくる新しいカーボン市場(後編)
前回は、ブロックチェーンがカーボン市場に適している理由──透明性・信頼・データ一貫性の確保──について整理しました。
今回はその続編として、その理念を実際のインフラとして形にしている Klima Protocolを取り上げます。
気候プロジェクトの多くは、カーボンクレジットの売上がなければ成り立ちません。森林再生からメタン削減、再エネ導入まで、いずれも初期投資が大きく、継続的な資金供給が不可欠です。しかし現在の市場は、分断された登録簿、遅い決済、OTC中心で不透明な取引など、資金が適切に流れにくい構造を抱えています。
Klima Protocolは、このボトルネックそのものを“プロトコルで置き換える”ことを目指しています。
その中心となるのが、ブロックチェーンの3つの要素──分散化・スマートコントラクト・NFT です。
まず分散化により、誰もがデータを閲覧し、検証できる「オープンな市場」を形成。従来の閉じた登録簿とは異なり、発行量・所有者・償却状況をリアルタイムで可視化することで、市場の信頼性そのものを大きく高めています。また、オープンネットワークだからこそ、他のアプリ・金融サービス・マーケットプレイスとも高い互換性を持ち、気候ファイナンスの“共通レイヤー”として機能します。
次にスマートコントラクトを用いることで、クレジットの発行・移転・償却を自動化。仲介者を介さずとも、取引が即時に、改ざん不可能な形で完了するようになります。プロジェクト開発者にとっては資金が早く届く仕組みとなり、気候アクション全体のスピードも向上します。
さらに、Klima Protocolは各プロジェクトをNFTとして表現することで、クレジットの由来・属性・品質を正確に記録します。プロジェクトごとに差が大きいカーボンクレジットの世界で、NFTによるトレーサビリティと重複防止は不可欠です。
加えて、Klimaが導入する「カーボンクラス(Carbon Classes)」は特に革新的です。
これは、同質ではないカーボンクレジットを“適度に分類”する仕組みで、
クレジットの多様性(方法論、地域、品質の違い)を保持しつつ
市場全体の流動性と価格発見を向上させる
という目的を両立しています。
これにより、過度に一括化して品質を曖昧にする従来のアプローチではなく、“粒度と流動性”の両方を大切にした市場設計が可能になっています。
こうした仕組みを組み合わせることで、Klima Protocolは、
24時間取引できるカーボンプール
自動マーケットメイキング
リアルタイムの価格データ
オープンアクセスの取引インフラ
などを実現し、自律的に運営される次世代カーボン市場の基盤をつくりつつあります。
前回紹介したCarbonmarkがこの上に構築されているように、Klima Protocolは単なるプロジェクトではなく、気候金融アプリケーションの“OS(オペレーティングシステム)”となる存在です。
透明で効率的、そして誰もが参加できるカーボン市場。インフラとしてのブロックチェーンが、その実現を大きく後押ししています。
🔗 参考記事:Building with Blockchain in the Carbon Market — Part 2
文・構成:濱田翔平(KlimaDAO JAPAN株式会社)
📰 今週の注目ニュース
■ BlueLayerとSenkenが連携──カーボンクレジット流通を“リアルタイム化”する新インフラへ
カーボン市場の最大の課題である「不透明で複雑な流通構造」を解消するため、BlueLayerとドイツのSenkenがシステム連携を開始しました。両社は、プロジェクト開発者と企業バイヤーをリアルタイムでつなぐデジタル統合マーケットを構築します。
BlueLayerは世界500以上のカーボンプロジェクト(総額100億ドル超の在庫)に利用されている管理インフラ。一方Senkenは、VodafoneやDeutsche Telekomなど大企業が利用するカーボンクレジット調達プラットフォームです。今回の連携により、SenkenはBlueLayerのListings APIを通じて、プロジェクトの在庫・認証状況・価格情報をリアルタイムで取得できるようになりました。
これにより、開発者はデータを自分で管理しつつ、より広範な企業ネットワークへアクセス可能に。すでに試験運用では、ドイツの大手家電メーカーがBlueLayer利用プロジェクト(Permian Global、Quadriz)から1万クレジット以上を購入する成果も出ています。
■ Carbon RXとGRNX、農家向け“ブロックチェーン型カーボン計測+即時支払”を共同開発へ
カナダのCarbon RXは、農家向けデジタル決済基盤を持つGRNX Globalと提携し、農業由来カーボンクレジットの生成を効率化するブロックチェーン型MRV(測定・報告・検証)システムを共同開発します。
Carbon RXは独自のLayer2技術とプロトコル開発の知見を活かし、リアルタイムの炭素計測、ISO準拠の方法論、クレジット自動発行をGRNXの台帳インフラに統合。これにより、農家は透明で迅速な成果連動型の支払いを受けられる仕組みが実現します。
GRNXは穀物取引の決済課題をWeb3技術で解決してきた背景があり、今回の連携でカーボンクレジット分野にも拡張。両社は、日本を含む国際市場向けに高品質な再生型農業クレジットの供給を拡大し、農家の新たな収益源創出につなげたい考えです。
■ 延岡市、森林Jクレジット申請を「90%省力化」──旭化成の支援システムを実証
宮崎県延岡市は、森林由来J-クレジットの創出を支援する旭化成のシステムを実証し、申請業務の作業量を約90%削減できたと発表しました。森林簿や地理情報などをデータベース化し、その上でCO₂吸収量の算定・損益シミュレーション・計画書作成を自動化することで、これまで1.5〜3カ月かかっていた業務が4〜5日程度で完了可能になったといいます。
延岡市は2025年度に1,804トン、2040年度までに合計3万4,370トンの森林クレジット創出を予定しており、既に企業向け販売も開始済みです。従来は専門知識や地図データとの突合せ作業がネックとなっていましたが、同システムにより少人数でもJクレ創出を継続できる体制づくりにつながると期待されています。
日本は国土の約7割が森林である一方、担い手不足で管理が進まない地域も多く、「申請の手間」が森林クレジット普及のボトルネックとされてきました。今回のような業務自動化ツールは、自治体や森林組合がJ-クレジットを通じて森林管理資金を確保しやすくする重要な基盤と言えそうです。
✏️ 編集後記:カーボンクレジットの次のキーワードは「リアルタイム」
今号ではKlima ProtocolやSenken、Carbon RXの取り組みを紹介しましたが、これらに共通するのはリアルタイム性というキーワードです。
カーボンクレジット市場は長らく「遅い・見えない・信頼しづらい」という課題を抱えてきました。プロジェクトの計測は年1回、取引は数週間、情報はPDF、価格は不透明──こうした構造がグリーンウォッシュの温床になってきたと言っても過言ではありません。
しかし、今回取り上げたプレイヤーたちは、その核心部分を“時間”で変えようとしています。
Klima Protocolは、オンチェーンでの24時間自動マーケットメイクにより、価格と取引履歴をリアルタイムで公開。
Senken × BlueLayerは、在庫・認証・価格などのプロジェクトデータをAPI連携でリアルタイム共有。
Carbon RX × GRNXは、農家の炭素計測や成果ベースの支払いをリアルタイムに実施し、データのねじれをなくす。
これらに共通する答えは明確で、「信頼できるカーボンクレジット」とは“遅れて届く情報”ではなく、リアルタイムで検証可能なデータであるということです。
世界がグリーンウォッシュに敏感になり、企業の気候報告義務も強化される中、カーボンクレジットもまたスピードと透明性が価値の源泉になる時代に入っています。
リアルタイムで計測され、リアルタイムで評価され、リアルタイムで取引できる──
そんな「ライブ型カーボンクレジット市場」がこれからのスタンダードになるでしょう。
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