🌍 クリマニュース 第18号
特集:カーボンクレジット市場とDeFiの接続(Part 2)
🔍 特集:カーボンクレジット市場とDeFiの接続(Part 2)
本稿は、KlimaProtocol(旧KlimaDAO)のFounderであるDionysusがXに投稿した記事「Preparing a Foundation - Part 2: Klima Protocol is for Builders」を、クリマニュース向けに要点整理したものです。前編で「オンチェーンに必要な基本機能(購入・償却など)は概ね揃った」と総括したうえで、後編は「次の革新を誰がどう作るのか」に焦点を当てています。キーワードは、スマートコントラクト、dMRV、そしてAIエージェント(MCP)です。
まずDionysusは、スマートコントラクトがカーボン市場にもたらす価値を「取引の確実性」と「自動化」に置きます。たとえばCarbonmarkのようなマーケットで売り手がクレジットを出品した場合、購入が成立すればUSDCが確実に支払われる。つまり、契約書や人手、仲介を前提にした従来型の取引と比べ、カウンターパーティーリスクを大きく減らせるという整理です。さらに、オンチェーン上で属性データを使ったリアルタイム検索・フィルタリングを行い、24/7でプログラム的に購入・償却できる点を強調します。2026年1月時点で、API利用者は数百のプロジェクト、数百万トン規模のクレジットから条件検索し、機械的に購入・償却まで実行できる。加えて「1kg単位」のような小口化(フラクショナライズ)も可能になり、資金フローの速度(velocity)を上げ、開発者への資金循環をスケールさせ得ると述べます。
次に、需要側(買って償却する)の自動化だけでなく、供給側=「クレジット発行」の自動化にも踏み込みます。そこで出てくるのがdMRV(デジタルMRV)です。衛星データで森林バイオマスの変化を推定したり、太陽光発電所ならIoTで発電量データを取得したりして、現実世界のデータを迅速に集め、検証し、提示する。Dionysusの見立てでは、将来的にこうしたデータがスマートコントラクトによる発行判断へ直結し、クレジットの生成・検証がより短サイクル化していく流れにあります。
ここで重要な概念として紹介されるのが「Ladder of Trust(信頼の梯子)」です。カーボンクレジットのライフサイクルは、データベース、事業者、レジストリなど断片化した主体にまたがり、「真実の所在(source of truth)」が分散しがちです。標準化の不足は、クレジットの完全性に対する確信を弱める。Ladder of Trustは、厳密なデータ、監査可能なプロセス、エンドツーエンドの透明性といった複数の層を積み上げて信頼を形成する枠組みであり、ブロックチェーンはクレジットのより広い範囲の履歴を監査可能に固定し、近いリアルタイムで更新される動的な状態管理を可能にすると主張します(従来市場が許容してきた「2〜3年遅れの更新」からの脱却、という問題意識です)。
そして後半の山場が、AIエージェントの話です。スマートコントラクトは強力でも、従来型の市場参加者が「自分で自動化を組む」にはWeb3のハードルが高い。そこでDionysusは、LLMやAIエージェントが自然言語でオンチェーン操作を呼び出せる「Model Context Protocol(MCP)」を橋渡しとして位置づけます。MCPがスマートコントラクトの関数を「言葉で呼べる道具」に変換することで、AIが手作業なしに実際のブロックチェーン操作を実行できる世界が開ける、という整理です。
加えて、AIエージェントの「活動基盤」としてパブリックブロックチェーンを使う意義も述べます。単一障害点を避け、改ざん耐性のあるログで透明性・検証可能性を担保できるため、サプライチェーン追跡やカーボン市場分析のように「監査できること」が重要な領域に向く。エージェント自身がトークン化資産(例:カーボンクレジット)を保有し、取引し、戦略を実行できる未来像も描かれます。
具体例として、Regen Networkが進める「Registry Assistant」に触れ、現状は「read-only(読むだけ)」で検証データの整合チェックや洞察提供を支援している点を紹介します。その先には「write(書き込む)」へ進み、第三者のリモセンデータでオラクルの主張を突合したり、企業の長期調達戦略に沿って価格帯・属性条件で自律的に買い付けたり、定期的な市場レポートを自動生成したりする可能性がある。Dionysusはそうした未来を見据えて、Klima Protocolのスマートコントラクトとドキュメントを「ビルダーが使いやすい形」に整備していくといいます。
結論として、Klima Protocolは「中立でオープン、組み合わせ可能な基盤」として、Carbonmarkのようなマーケット、Regenのようなレジストリ、dMRV実装を試す開発者、そして新規参入者が上に積み上げられる土台になることを狙います。Jeremy Allaireの「金融は仲介のサイロから、共有されるソフトウェアネットワークへ移行する」という言葉を引用しつつ、スマートコントラクト(実行の信頼最小化)×dMRV(検証の短サイクル化)×MCP/AIエージェント(参加主体の拡張)が揃うことで、透明で高速に回るVCMの“次の姿”が現実味を帯びてきた、と述べられています。
文・構成:濱田翔平(KlimaDAO JAPAN株式会社)
📰 今週の注目ニュース
■ タイ、炭素クレジットを先物・デリバティブの参照資産に追加へ
タイ政府は2026年2月10日の閣議で、先物取引法(2003年制定)に基づく先物・デリバティブ取引の参照資産に「炭素クレジット」を新たに加えることを承認しました。SEC(証券取引委員会)の監督下にあるタイ先物取引所(TFEX)の取引対象を拡充し、国際的な潮流に沿った金融インフラの高度化を図ります。対象は炭素クレジットに加え、排出枠や再生可能エネルギー証書(REC)にも広がり、企業が価格変動リスクをヘッジしつつ、環境対応コストを計画的に把握できるようにする狙いです。政府は2050年カーボンニュートラル/実質ゼロ目標に沿う措置と位置づけています。
エークニティ副首相兼財務相は、現状のタイの炭素市場が自主制度中心で規模が小さく、価格も国際水準を下回ると説明する一方、気候変動法(原則承認済み)の施行を見据えた準備の必要性を強調。同法では排出上限と、超過分をクレジット購入で相殺する仕組みの導入が見込まれ、需要拡大と価格の適正化につながるとしています。
併せて、暗号資産・デジタルトークンなどデジタル資産を参照資産として認めることや、為替・金利など既存指標の見直しも承認され、規制を新たなリスク環境へ適応させる姿勢が示されました。
■ BCarbon、Hederaへレジストリ移行 200万超のカーボンクレジットをオンチェーン管理へ
BCarbonは、同社のWeb3ネイティブなカーボンレジストリをHederaへ移行し、これまでに発行した200万件超のカーボンクレジットをネットワーク上へ移転すると発表しました。対象クレジットは主にメタン削減プロジェクトを含み、今後はHedera Guardianの枠組みのもとで、クレジットのシリアル追跡、監査証跡の強化、手続きワークフローの自動化を進めるとしています。BCarbonはこれまでPolygon上で運用してきましたが、次段階としてHederaを選択した形です。
同社は井戸封鎖によるメタン削減、土壌炭素、森林、ブルーカーボンなど複数カテゴリでトークン化クレジットを発行しており、オンチェーン化によりプロジェクトのライフサイクル全体にわたる検証・記録の透明性向上を狙います。今後は標準ベースのインフラとの整合や相互運用性の拡大も掲げ、Hedera Foundationの支援を受けながら、監査可能性を軸にカーボン市場のデータ完全性を高める方針です。
■ 米トランプ政権、温暖化対策の「法的根拠」を撤回 脱炭素投資に政策転換リスク
トランプ米政権は2月12日、米環境保護局(EPA)が2009年に示した「温暖化ガスが公衆の健康・福祉を危険にさらす」という科学的認定を撤回しました。CO2やメタンなど温暖化ガス排出規制の根拠そのものを崩す措置で、自動車の排ガス規制緩和などを通じ、家計・企業負担の軽減を前面に出します。EPAは規制緩和で納税者負担が大幅に減ると主張し、アイドリングストップ義務の廃止も例示しました。
一方で、米国の環境政策は政権交代のたびに揺り戻しが起きており、EV・再エネ、CCS(CO2回収・貯留)など脱炭素分野へ投資してきた企業にとっては、中期的な政策転換リスクの見極めがより重要になります。パリ協定の再離脱や補助金縮小に続く今回の動きは、米国内だけでなく、欧州・日本との温暖化対策の足並みのずれを広げる可能性も指摘されています。
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協力:ReFi Japan
監修:Fracton Ventures株式会社
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現在、カーボンクレジットをブロックチェーン上で取引できるマーケットプレイス「CarbonMall」の開発を進めています。
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