🌍 クリマニュース 第10号
特集:カリフォルニア排出枠のトークン化が示す、新しいカーボン市場のかたち
🔍 特集:カリフォルニア排出枠のトークン化が示す、新しいカーボン市場のかたち
コンプライアンス型の排出量取引市場でも、ブロックチェーンを活用した新しい動きが始まっています。その代表例が、スタートアップの Masser(CANA Holdings)と、気候関連ETFで知られる資産運用会社 KraneShares が共同で進めている「CANA」というプロジェクトです。CANAは、カリフォルニア州の排出枠(CCA:California Carbon Allowances)を 1 トークン=1 トンとして表現し、これまで事業者以外はほとんどアクセスできなかったコンプライアンス市場を、個人や暗号資産ユーザーにも開いていく取り組みです。
仕組みとしては、CANA Holdings が実際の排出枠を取得し、その数量に対応するトークンを発行します。トークンと裏付け資産が1対1で対応することで、二重計上や過剰発行を避け、透明性を保つ設計になっています。発行されたトークンは、分散型取引所で売買できるだけでなく、レンディング市場で担保として利用することもでき、排出枠という規制資産が暗号資産エコシステムの中に徐々に組み込まれつつあります。
特徴的なのは、KraneSharesがパートナーとして参画している点です。同社はEUやカリフォルニア市場の排出枠を扱う炭素クレジットETFを運用しており、これまで主に機関投資家向けに「炭素価格への投資機会」を提供してきました。そのKraneSharesが関わることで、排出枠の評価やリスク管理など従来金融側の知見がプロジェクトに反映され、トークン化事業としての信頼性が高まっています。「Web3スタートアップが単独で進める」というより、従来金融とブロックチェーンのハイブリッド型で進行している点がCANAの特徴と言えます。
こうした動きは、日本のJクレジットをトークン化していく上でも参考になります。まず、CANAと同様に「1トークン=1クレジット(=1トン)」という明確な対応関係や、原簿との正確な紐付けは、市場から信頼を得る上で欠かせません。また、トークンを単なるオフセット用途にとどめず、取引市場やDeFiと接続することで、より多くの参加者が市場に関わるきっかけとなり、市場全体の流動性や価格の透明性が向上します。さらに、KraneSharesのように気候金融のプレイヤーがトークン化領域に入ってきたことで、今後は国際的なデジタル炭素商品が生まれる可能性もあり、日本のクレジットもその中でどう位置づけられるかが問われていくはずです。
MasserとKraneSharesによるCANAは、コンプライアンス市場のトークン化に関する実践的な事例として、Jクレジットのデジタル化を進める際の参考になる点が多くあります。日本のクレジット市場においても、透明性や国際的な接続性を意識しながら、より開かれた市場づくりを進めていくことが重要になってきています。
🔗 参考記事:
文・構成:濱田翔平(KlimaDAO JAPAN株式会社)
📰 今週の注目ニュース
■ 「CO₂ゼロ日本酒」が誕生──酒米の“水田クレジット”で実質ゼロ化、NTT系が支援
山形県飯豊町の若乃井酒造が、酒米づくりで創出される水田クレジットを活用し、製造時の排出を実質ゼロにする日本酒「永遠酔(とわよい)」を開発しました。仕組み構築を支援したのはNTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)です。
水田は水を張ったままだとメタンが発生しますが、「中干し」を1週間延長するだけでメタン排出を約3割削減でき、それをJ-クレジットとして申請可能。ドコモビジネスは水位センサーなどを使い、中干しの状況をリアルタイムで測定し、申請データの整理まで支援するため、生産者の負担なくクレジットを創出できます。
若乃井酒造は、この酒米を使い、製造に使う電力は再エネで調達。どうしても残る燃料由来の排出は、水田クレジットを購入して相殺することで、酒全体の排出量を実質ゼロにしています。
「永遠酔」は通常より6割ほど高い価格にもかかわらず、環境価値が評価され、酒販店からの問い合わせが増えるなど販路拡大の追い風となっています。
■ サンパウロ州の小規模農家向けに「ブロックチェーン型マイクロローン」提供へ──Tanssiインフラで手数料を安定化
ブラジルのインフラ系プロトコル Tanssi の技術を活用し、小規模農家向けのブロックチェーン基盤マイクロローン「TerraLogs」プロジェクトがサンパウロ州で本格展開されます。貸付額は最大1万5,000レアル(約2,800ドル)で、すでにパイロットを実施したサント・アントニオ・ダ・アレグリアに続き、来月から本格稼働予定です。
この仕組みはTanssiの「アプリチェーン」型インフラ上で動きますが、農家側は通常のモバイルアプリと物理端末を使うだけで、ブロックチェーンは裏側に隠れた形。クレジットの利用用途をエコシステム内に限定し、リスク管理と不正防止を図っています。
開発元のC9は、EthereumやSolanaといったパブリックチェーンではなくTanssiを採用。理由は、公共性の高い資金を扱ううえで重要となるトランザクション手数料の予測可能性とネットワーク安定性を優先したためと説明しています。公共DIDやCBDCとは別に、自治体・民間主導のクローズド型ブロックチェーン金融が静かに広がりつつある一例と言えます。
■ ジャマイカ初のネイティブBTCアプリ「Flash」、ハリケーン被災地支援でフル稼働
ジャマイカ発のビットコインアプリ Flash が、ハリケーンMelissaの被災地支援で重要な役割を果たしています。開発者のJabari “Dread” Ennis氏は、嵐の上陸当日からBTCPay連携の寄付ページを立ち上げ、72時間で約1万ドル、現時点で1万5,000ドル超のBTC寄付を集め、水・食料・紙おむつなどの救援物資購入と配布に活用しています。
FlashはLightning Networkを使った少額・即時送金や、ビットコインを裏で使った“擬似ドル建て残高”(Stablesats類似機能)を提供しつつ、アプリ上ではシンプルな「USD」表示で扱えるのが特徴です。ビットコインをアプリ内で現地通貨にオフランプして銀行口座へ入金したり、そのままビットコイン決済を受け付ける加盟店で支払いに使うこともでき、寄付→換金→現物支援までの流れを一気通貫で実現しています。
ジャマイカでは銀行が海外取引所への送金をブロックする事例もあり、市民がビットコインにアクセスする手段は限られていました。Flashはその課題を解消する“オンランプ兼オフランプ”として、平時の送金・決済だけでなく、災害時に既存金融インフラが麻痺したときの「最後のマネーレール」として機能し始めています。
✏️ 編集後記:日本のコンプライアンス市場にも“トークン化の視点”を
CANAのように、コンプライアンス型の排出枠そのものをトークン化する動きは、これまで自主的市場(VCM)中心に語られてきた「ブロックチェーン×炭素市場」の文脈とは一段階違う、より“制度金融に寄ったフェーズ”に入ってきたと感じます。排出枠という規制資産をオンチェーン化し、個人投資家やDeFiの世界まで参加者を広げていく試みは、まさに従来の制度金融とWeb3が融合していく象徴的な事例のひとつです。
日本でもJクレジットをトークン化する議論は徐々に広がっていますが、CANAのように「原簿との完全な1対1対応」や「金融プレイヤーによる監督的役割」がセットで設計されている事例はまだ多くありません。裏返せば、こうした仕組みを丁寧に整えていくことができれば、日本のクレジットも国際市場で戦える“デジタル商品”へ進化できる余地が大きいとも言えます。
筆者自身、国内の関係者と話す中で、こうした海外動向への関心が高まりつつあることを実感しています。日本の市場は制度も参加者も慎重なぶん、一度仕組みが整えば強い信頼性を持ったプロダクトを生み出せるポテンシャルがあります。CANAの事例をただの海外ニュースとして終わらせず、Jクレジット市場の将来像を描くうえでの“構造的ヒント”として生かしていきたいところです。
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